「た」

脳・神経

体の痛みを理解する:体性痛とは?

- 痛みの分類痛みは、私たちの身体が危険信号を発する重要なサインです。その種類は多岐にわたり、原因や発生機序、神経を伝わる経路の違いによって分類されます。国際疼痛学会では、痛みを「実際のまたは潜在的な組織損傷に関連する、またはそのような損傷として表現される、不快な感覚的および情動的経験」と定義しています。これは、痛みは単なる感覚的な経験ではなく、感情や思考、過去の経験などが複雑に関係する、個人によって異なる主観的なものであることを示しています。痛みの分類として、まず発生源による分類が挙げられます。体の表面に近い皮膚や粘膜に生じる痛みは表在痛と呼ばれ、比較的鋭く感じられます。一方、内臓や筋肉、骨など体の深部で生じる痛みは深部痛と呼ばれ、鈍く、広範囲にわたって感じられることが多いです。次に、痛みが続く期間による分類として、急性痛と慢性痛があります。急性痛は、ケガや手術など明らかな原因によって生じ、短期間で治まる痛みです。一方、慢性痛は、原因がはっきりしない場合や、長期間にわたって続く痛みを指します。一般的には3ヶ月以上続く場合を慢性痛と呼ぶことが多いです。さらに、神経の損傷の有無によって、侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛に分けられます。侵害受容性疼痛は、組織の損傷によって発生する痛みで、切り傷や火傷などによる痛みが代表的です。神経障害性疼痛は、神経系自体が損傷を受けることで起こり、電気が走るような痛みやしびれを伴うことがあります。このように、痛みは多様な側面を持つため、その分類も複雑です。痛みの種類や原因を理解することは、適切な治療法を選択する上で非常に重要となります。
看護技術

患者の快適と回復を支える体位変換

- 体位変換とは何か体位変換とは、寝ている人の体の向きや姿勢を定期的に変えるケアのことです。特に、病気や怪我などで長時間ベッドで過ごす必要がある方にとって、このケアは非常に重要です。人は誰でも、同じ姿勢を長時間続けていると、体に負担がかかってしまいます。例えば、椅子に座り続けていると、お尻や腰が痛くなってくることがありますよね。これは、体重が特定の場所に集中し続けることで、血行が悪くなったり、皮膚が圧迫されたりするためです。寝たきりの方の場合、自分で体の向きや姿勢を変えることが難しい場合が多く、長時間同じ姿勢を強いられることになります。すると、お尻や背中、かかとなどに負担が集中し、床ずれ(褥瘡)と呼ばれる皮膚の潰瘍ができてしまうことがあります。床ずれは、重症化すると治癒が難しく、痛みや不快感を伴うため、予防が何よりも重要です。また、体位変換には、床ずれの予防以外にも、肺炎や尿路感染症などの合併症を防ぐ効果もあります。体の向きを変えることで、肺に空気が入りやすくなったり、尿の流れが良くなったりするためです。さらに、筋肉や関節の萎縮や拘縮を予防する効果も期待できます。体位変換は、患者さんの体の状態や、医師や看護師の指示に従って行う必要があります。具体的には、どのような姿勢にするか、どのくらいの頻度で変えるか、などが異なります。家族や介護者が体位変換を行う場合は、正しい方法を習得しておくことが大切です。
循環器

静かなる脅威:大動脈瘤について

- 大動脈瘤とは私たちの体を巡る血管の中で、最も太く、心臓から送り出された血液を全身に届けるという重要な役割を担っているのが大動脈です。この大動脈の壁は、加齢や高血圧などの影響で、徐々にその強度を失い、もろくなっていくことがあります。 大動脈瘤は、このようにもろくなった大動脈の壁が、血液の圧力に耐えきれずに、風船のように膨らんでしまう病気です。瘤は、大動脈のどの部分にでも発生する可能性があり、その大きさも様々です。自覚症状がほとんどないため、健康診断などで偶然発見されることも少なくありません。しかし、瘤が大きくなると、胸や背中に痛みを感じたり、動悸や息切れがするなど、様々な症状が現れることがあります。さらに、瘤が破裂すると、大出血を引き起こし、命に関わる危険な状態に陥ることもあります。大動脈瘤は、早期発見と適切な治療が非常に重要です。定期的な健康診断を受け、少しでも異変を感じたら、早めに医療機関を受診しましょう。
その他

健康のバロメーター:体重について

- 体重とは何か体重とは、その名の通り、体の重さを指します。 私たちが健康を維持する上で、自分の体重を把握することは非常に大切です。毎朝、体重計に乗ると、デジタル表示や針で示される数値を見ますよね。あの数字こそが、皆さんの体全体の重さなのです。体重は、単に一つの要素で決まるのではなく、骨、筋肉、脂肪、血液、水分など、体を作る様々な成分の合計値として表れます。 それぞれの成分が、生命活動や健康維持に重要な役割を果たしており、バランスを保つことが大切です。 例えば、骨は体を支える土台となり、筋肉は運動や姿勢維持を担っています。脂肪はエネルギーを蓄えたり、体温を維持したりする役割がありますが、過剰に蓄積されると、健康に悪影響を及ぼす可能性もあります。 血液は全身に酸素や栄養を運び、水分は体の様々な機能を調節しています。このように、体重は体の様々な要素を反映した指標であるため、健康状態を評価する上で重要な手がかりとなります。 体重の変化は、体の水分バランスの変化や、筋肉量、脂肪量の増減などを反映している可能性があります。 極端な体重の変化は、健康上の問題のサインである可能性もあるため、注意が必要です。 定期的に体重を測定し、自身の健康状態を把握するように心がけましょう。
検査

健康のバロメーター:体温計を知ろう

- 体温計とは体温計は、私たちの体の状態を知るための、とても身近な道具です。毎日のように使う人もいれば、風邪を引いた時くらいしか使わない人もいるかもしれません。しかし、体温計が示す「体温」は、私たちの健康状態を映す重要なサインです。体温計を使うことで、私たちは自分の体が正常な状態にあるのか、そうでないのかを知ることができます。 体温計は、体の内部の温度を測ることで、健康状態をチェックするための道具です。健康な状態では、私たちの体温はほぼ一定に保たれています。これは、体が外部の気温の変化に関係なく、常に活動しやすい状態を保つために、体温調節機能が働いているからです。しかし、体に異常が起こると、この体温調節機能がうまく働かなくなり、体温が上昇したり、低下したりすることがあります。 体温計で体温を測ることで、発熱や低体温症などの体の異常を早期に発見することができます。早期発見は、適切な処置や治療を受けるために非常に重要です。また、毎日の体温を記録することで、自分の平熱を知ったり、体調の変化に気づくことができるようになります。 体温計には、脇の下で測るタイプや耳で測るタイプ、おでこで測るタイプなど、様々な種類があります。それぞれに特徴があるので、用途や好みに合わせて選ぶと良いでしょう。 体温計は、健康管理に欠かせないアイテムです。正しく使って、健康的な毎日を送りましょう。
循環器

心臓を助ける縁の下の力持ち:IABP療法

- IABP療法とは心臓は、全身に血液を送り出すために休むことなく働き続けています。しかし、病気や怪我などによって心臓のポンプ機能が著しく低下してしまうことがあります。このような状態は心不全と呼ばれ、生命に関わる危険な状態です。IABP療法(大動脈内バルーンパンピング法)は、この心不全に陥った心臓を補助し、回復を促すことを目的とした治療法です。IABP療法では、まず足の付け根の動脈からカテーテルと呼ばれる細い管を挿入します。そして、そのカテーテルの先端に風船のついたバルーンを大動脈まで進めます。このバルーンは心臓の動きと同期して膨らんだり縮んだりするように設計されており、心臓が拡張する時にはバルーンは縮み、心臓が収縮する時にはバルーンは膨らみます。バルーンが膨らむことで大動脈内の圧力が上昇し、心臓から送り出される血液量が増加します。また、バルーンが縮むことで大動脈内の圧力が減少し、心臓の負担が軽減されます。このように、IABP療法は心臓のポンプ機能を補助することで、心不全の症状を改善します。IABP療法は、あくまで心臓が回復するまでの一時的な補助療法であり、心臓の根本的な治療ではありません。しかし、心不全の危機的な状況を乗り越え、心臓の回復を待つための重要な治療法と言えるでしょう。
小児科

赤ちゃんの成長と原始反射:対称性緊張性頸反射

生まれたばかりの赤ちゃんは、まだ自分で思い通りに体を動かすことができません。しかし、周囲からの様々な刺激に対して、決まった反応を示します。これが「反射」です。反射には、赤ちゃんが生きていくために必要な動きを促すものや、脳や神経の発達を促すものなど、重要な役割を担うものがたくさんあります。 これらの反射は、まるでプログラムされたかのように、決まった刺激に対して、決まった反応を示します。例えば、「モロー反射」と呼ばれる反射では、赤ちゃんは大きな音や、体勢が急に変化した時に、両腕を広げて抱きつくような動作をします。また、「把握反射」では、手のひらに何かが触れると、ぎゅっと握り返します。 これらの反射は、赤ちゃんの成長とともに、脳の成熟に伴い、徐々に統合されていきます。そして、自分の意志で体を動かせるようになるにつれて、自然と消失していきます。そのため、これらの反射は「原始反射」と呼ばれます。原始反射は、赤ちゃんが成長する過程で一時的に現れる、いわば「通過点」のようなものなのです。
小児科

ダウン症:理解を深める

ダウン症は、21番目の染色体が通常より1本多く存在することで起こる先天的な症候群です。この染色体の異常は「トリソミー21」と呼ばれています。 染色体とは、私たちの体の設計図のようなもので、通常は2本ずつ対になって存在します。この設計図には、私たちの体の特徴や機能に関する情報が細かく書かれています。しかし、ダウン症の人は21番目の染色体が3本あるため、設計図の一部に重複が生じます。その結果、身体的特徴や発達に影響が現れます。 ダウン症の人の特徴としては、顔つきが特徴的であること、筋肉の緊張がゆるいこと、知的発達の遅れなどが挙げられます。しかし、これらの特徴は個人差が大きく、一概に全ての人に当てはまるわけではありません。 ダウン症は、出生前に羊水検査や母体血清マーカー検査などである程度予測することができます。出生後も、早期に適切な療育を受けることで、その子の持っている力を最大限に伸ばすことが可能です。
循環器

命に関わる疾患:大動脈解離

- 大動脈解離とは心臓から送り出された血液は、全身に張り巡らされた血管を通って酸素や栄養を届けます。その中でも大動脈は、心臓から直接血液を受け取り、全身に送り出すという重要な役割を担う、最も太い血管です。この大動脈の壁は、いくつかの層が重なってできていますが、何らかの原因によって内側の層が破れることがあります。これが大動脈解離と呼ばれる病気です。大動脈の壁が破れると、血液がその裂け目に入り込み、本来の血液の通り道(真腔)とは別に、壁の層と層の間に新たな血液の通り道(偽腔)ができてしまいます。すると、大動脈の壁は内側から押し広げられるように圧迫され、さらに裂け目が広がってしまう危険性があります。大動脈解離は、突然の激しい胸や背中の痛みを伴うことが多く、放置すると命に関わる恐ろしい病気です。早期発見、早期治療が何よりも重要となるため、少しでも異変を感じたら、ためらわずに医療機関を受診してください。
歯科・口腔

唾液腺: 口腔の潤滑剤を供給する働き者

口の中に常に分泌されている唾液は、私達が健康に過ごすために欠かせない役割を担っています。唾液を作り出す器官である唾液腺は、その大きさによって大唾液腺と小唾液腺の2つの種類に分けられます。 大唾液腺には、耳下腺、顎下腺、舌下腺の3つがあります。顔の両側の耳の下あたりに位置する耳下腺は、サラサラとした漿液性の唾液を分泌しています。この唾液には、消化酵素であるアミラーゼが豊富に含まれており、食べた物の消化を助ける役割を担っています。顎の下にある顎下腺は、漿液性の唾液と粘液性の唾液の両方を分泌する混合腺です。あごの先の下にある舌下腺も混合腺ですが、顎下腺よりも粘液性の唾液が多く分泌されます。 口唇、頬粘膜、軟口蓋、舌などに散らばっている小さな唾液腺は小唾液腺と呼ばれ、常に少量の唾液を分泌することで口の中を潤し、粘膜を保護しています。 唾液には、食べ物を湿らせて飲み込みやすくしたり、味を感じやすくしたりする役割の他に、消化酵素による消化作用や、抗菌物質による口腔内の殺菌作用など、様々な働きがあります。つまり、唾液腺は、私達が健康に生活するために重要な役割を担っていると言えるでしょう。
循環器

命に関わる大動脈解離:その静かな脅威

- 大動脈解離とは私たちの体には、全身に血液を送り出すために休むことなく働き続けている心臓という臓器があります。そして、心臓から送り出された血液を全身に届ける役割を担っているのが動脈と呼ばれる血管です。その中でも特に重要なのが、心臓から直接血液を受け取り、全身へと送り出す役割を担う「大動脈」です。大動脈解離とは、この大動脈の壁の一部が内側から裂けてしまう病気です。大動脈の壁は、内膜、中膜、外膜という三層構造になっています。何らかの原因で内膜に亀裂が生じると、心臓から送り出された血液がその亀裂に入り込み、本来の血液の通り道とは別の空間を作り出してしまいます。この新しくできた空間を「偽腔」、本来の血液の通り道を「真腔」と呼びます。大動脈解離が起こると、胸や背中に激しい痛みを感じることが多く、まるで引き裂かれるような激痛に襲われます。また、脈拍の異常や血圧の低下、呼吸困難、意識障害などの症状が現れることもあります。大動脈解離は、放置すると破裂してしまう危険性があり、命に関わる事態になりかねません。そのため、早期発見と迅速な治療が非常に重要となります。
循環器

医療現場で使われる「 tachyる 」って?

病院などの医療現場では、医師や看護師といった医療従事者たちが、患者さんの症状や治療方針について、迅速かつ正確に情報を共有する必要があります。 そのため、医療現場では独自の言葉遣いが生まれており、専門用語や略語が日常的に飛び交っています。これは、医療従事者同士がスムーズにコミュニケーションをとり、業務を効率的に進めるために欠かせないものです。 こうした医療現場独特の言葉遣いは、時に「 jargon (ジャーゴン)」と呼ばれます。ジャーゴンは、一見すると何の言葉か理解しづらい専門用語や略語、隠語などを含みます。医療従事者以外には馴染みのない言葉が多く、患者さんにとっては分かりにくいと感じることもあるかもしれません。 例えば、「 tachyる(タキる)」という言葉は、医療現場で使われるジャーゴンの一例です。これは、「 tachycardia(頻脈)」という医学用語を短縮したもので、心臓の鼓動が異常に速くなっている状態を指します。このように、医療現場では、専門用語の一部を短縮したり、言い換えたりすることで、コミュニケーションを簡略化し、迅速な情報伝達を可能にしているのです。 しかし、ジャーゴンの使用は、患者さんとの間にコミュニケーションギャップを生む可能性もはらんでいます。そのため、医療従事者は、患者さんに対しては分かりやすい言葉で説明するよう心がける必要があります。患者さんの方も、もし医療従事者の言葉が理解できない場合は、遠慮なく質問することが大切です。
産婦人科

タンポンの基礎知識

- タンポンとは?タンポンは、生理中に膣内に挿入して使用する生理用品です。 ナプキンと同じく、経血を吸収する役割を担いますが、体の中に挿入して使う点が異なります。主な素材は、綿やレーヨンなどの吸収性に優れた素材を圧縮して作られています。形は円筒形で、タンポンの下部には紐が付いており、使用後にはこの紐をゆっくりと引っ張ることで取り出すことができます。タンポンは、ナプキンと比べて、運動や水泳などの活動的な場面でも、経血漏れを心配することなく快適に過ごせるという利点があります。また、ナプキンよりもコンパクトで、持ち運びにも便利です。さらに、体内に挿入するため、蒸れやニオイが気になるという方にも適しています。しかし、タンポンを使用する際には、いくつかの注意点があります。まず、使用前に必ず手を清潔に洗い、説明書をよく読んでから使用するようにしましょう。また、タンポンは長時間使用すると、細菌感染のリスクが高まる可能性がありますので、こまめに交換することが大切です。交換の目安は、経血量にもよりますが、4〜8時間ごとと言われています。さらに、まれに、トキシックショック症候群(TSS)という重篤な病気を引き起こす可能性があります。TSSは、タンポンを長時間使用することによって、黄色ブドウ球菌が増殖し、毒素が産生されることによって引き起こされます。発熱、発疹、吐き気などの症状が出た場合は、すぐにタンポンの使用を中止し、医療機関を受診してください。
救急

多臓器不全:体の危機

- 多臓器不全とは多臓器不全は、文字通り、複数の臓器が機能しなくなる深刻な状態です。私たちの体には、それぞれ重要な役割を持つ様々な臓器が存在しますが、多臓器不全では、これらの臓器が同時に、あるいは連鎖的にその機能を失っていきます。生命維持に欠かせない臓器、例えば、血液を循環させる心臓、酸素を取り込む肺、老廃物を排出する腎臓、代謝を司る肝臓などが、正常に働かなくなることで、全身に深刻な影響が及んでいきます。では、なぜこのような恐ろしい状態に陥ってしまうのでしょうか?その原因は様々ですが、重度の感染症、大怪我、大手術など、体に大きな負担がかかった場合に起こりやすいと言われています。例えば、体の中に侵入した細菌やウイルスが全身に広がるような重度の感染症になると、体はそれに対抗しようと、激しい炎症反応を起こします。この炎症反応は、本来であれば体を守るための防御反応ですが、過剰になると、正常な細胞や組織まで攻撃してしまうことがあります。その結果、複数の臓器にダメージが蓄積し、機能不全に陥ってしまうのです。また、交通事故などで体に大きな怪我を負った場合や、心臓や肺の手術など、体に負担の大きい手術を受けた後にも、多臓器不全が起こることがあります。これは、怪我や手術による直接的な臓器の損傷に加えて、出血やショックなどによる血流不全、感染症の合併など、様々な要因が複雑に絡み合って起こると考えられています。このように、多臓器不全は、様々な要因によって引き起こされる、非常に複雑な病態です。
循環器

命を脅かす疾患:大動脈解離

- 大動脈解離とは心臓から送り出された血液は、全身に張り巡らされた血管を通って各組織へと運ばれます。その中でも大動脈は、心臓から直接血液を受け取り、全身に送り出すための最も太い血管です。この重要な血管に亀裂が生じ、重大な事態を引き起こす病気が「大動脈解離」です。大動脈は、内膜、中膜、外膜という3層構造でできています。大動脈解離は、このうち内膜に亀裂が生じることで始まります。すると、心臓から勢いよく送り出された血液が、この亀裂から血管壁の層間に入り込んでしまいます。これが、「解離」と呼ばれる状態です。解離が起こると、大動脈の壁は薄くなり、血管が破裂する危険性が高まります。大動脈が破裂すると、大量出血を起こし、死に至る可能性もあります。また、解離によって血管が狭くなったり、閉塞したりすることで、心臓や脳など、重要な臓器への血流が阻害されることもあります。大動脈解離は、突然発生し、激しい胸や背中の痛みを伴うことが特徴です。適切な処置を行わないと命に関わる危険性が高いため、早期発見と迅速な治療が非常に重要です。
産婦人科

不妊治療における体外受精:希望を育む技術

体外受精とは、その名の通り、母親の体外で卵子と精子を受精させる医療技術です。自然妊娠の場合、卵巣から排卵された卵子は卵管で精子と出会い、受精が起こります。しかし、体外受精では、この過程を体外で行います。 まず、女性の卵巣から卵子を採取します。この際、排卵を促すためにホルモン注射を行う場合もあります。同時に、男性からは精子を採取します。採取した卵子と精子は、体外にある特殊な培養液の中で受精させます。受精が確認できた受精卵は、数日間培養液内で成長させた後、再び母親の子宮に戻されます。 体外受精は、卵管が詰まっているなど、自然妊娠が難しい夫婦にとって、子供を授かるための有効な手段となっています。しかし、体外受精は、経済的負担が大きかったり、精神的なストレスがかかる場合もあるため、医師とよく相談し、治療を受けるかどうかの判断をすることが大切です。
皮膚科

帯状疱疹:原因と症状、その予防と治療

- 帯状疱疹とは帯状疱疹は、水痘・帯状疱疹ウイルスによって引き起こされる感染症です。このウイルスは、子供の頃にかかる水ぼうそうの原因となるウイルスと同一です。水ぼうそうが治った後も、このウイルスは体内の神経節に潜伏し続けます。そして、加齢や疲労、ストレス、病気などによって免疫力が低下すると、再び活性化することがあります。これが帯状疱疹です。帯状疱疹は、体の左右どちらか一方に、ピリピリとした痛みを伴う赤い斑点と小さな水ぶくれが帯状に現れるのが特徴です。この発疹は、通常、胸や背中、腹部などに出現しますが、顔面や頭部、手足に出ることもあります。また、発疹が現れる前に、その部位に痛みやかゆみ、しびれなどの症状が現れることもあります。帯状疱疹は、ほとんどの場合、2~4週間で自然に治癒します。しかし、皮膚の症状が消えた後も、神経痛が長引くことがあります。これは「帯状疱疹後神経痛」と呼ばれ、強い痛みを伴うため、日常生活に支障をきたすこともあります。帯状疱疹は、水ぼうそうにかかったことのある人であれば、誰でも発症する可能性があります。特に、50歳以上の人や、免疫力が低下している人は、発症リスクが高くなります。帯状疱疹を予防するためには、日頃から十分な睡眠とバランスの取れた食事を心がけ、ストレスを溜めないようにすることが大切です。また、50歳以上の人や、免疫力が低下している人は、ワクチン接種を検討することも有効です。
救急

多臓器不全:その深刻な状態を知る

- 多臓器不全とは多臓器不全とは、複数の臓器が正常な働きを失ってしまう、命に関わる危険性の高い状態です。私たちの体は、心臓が血液を送り出し、肺が酸素を取り込み、腎臓が老廃物をろ過し、肝臓が様々な物質を分解するなど、まるで精巧な機械のように、多くの臓器が互いに連携し合って生命を維持しています。それぞれの臓器は、健康な状態を保つために重要な役割を担っていますが、病気や怪我などによって、一つの臓器がダメージを受けると、その影響は他の臓器にも及びます。例えば、心臓が十分に血液を送り出せなくなると、酸素や栄養が体全体に行き渡らなくなり、肺や腎臓、肝臓など、他の臓器の働きにも支障が出てしまうのです。このように、一つの臓器の機能不全が、連鎖的に他の臓器の機能不全を引き起こし、最終的に生命維持が困難になる状態が多臓器不全です。臓器の機能不全が進むスピードや、どの臓器に障害が現れるかは、原因となる病気や怪我、体質などによって異なります。多臓器不全は、重症の感染症や外傷、大手術後などに発症しやすく、救命率が低いことが知られています。
その他

身体の動きを支える大胸筋:その構造と役割

- 大胸筋の位置と形状大胸筋は、その名の通り胸の前面に大きく広がる筋肉で、厚みがあり、まるで扇を広げたような形をしています。この筋肉は、鎖骨の下端から胸骨、肋骨にかけて広く付着しており、その範囲は胸全体の上部に及びます。そして、そこから腕の方へと伸びていき、上腕骨という腕の骨につながっています。大胸筋の特徴は、その繊維の向きが場所によって異なることです。鎖骨から起始する部分は、繊維が斜め下内側に向かって走り、胸骨から起始する部分は、繊維がほぼ垂直に下向きに走っています。さらに、肋骨から起始する部分は、繊維が斜め上内側に向かって走っています。このように、大胸筋は起始部によって繊維の方向が異なり、複雑な構造をしていることが分かります。この複雑な構造こそが、大胸筋が様々な動きに関与することを可能にしています。例えば、腕を前に突き出す動作、腕を横に広げる動作、腕を内側に捻る動作など、大胸筋は腕の動きと密接に関係しているのです。
産婦人科

多嚢胞性卵巣症候群:女性ホルモンの乱れと症状

- 多嚢胞性卵巣症候群とは多嚢胞性卵巣症候群とは、卵巣の中に通常よりも多くの卵胞(らんぽう)と呼ばれる小さな袋状の構造ができてしまう病気です。卵胞は、本来は卵子を育てるためのものです。しかし、この病気になると、卵胞の中で卵子がうまく成長せず、排卵が起こりにくくなってしまいます。この病気の原因はまだはっきりとは解明されていませんが、女性ホルモンのバランスが乱れることが深く関わっていると考えられています。具体的には、男性ホルモンと呼ばれるホルモンが過剰に分泌されたり、インスリンという血糖値を調整するホルモンがうまく働かなくなったりすることが影響していると言われています。多嚢胞性卵巣症候群の症状は人によって様々ですが、代表的なものとしては、月経不順や無月経、にきび、多毛、肥満などが挙げられます。また、排卵が起こりにくくなるため、妊娠しにくくなるのも特徴です。この病気は、命に関わるような病気ではありませんが、適切な治療を受けずに放置すると、子宮体がんや糖尿病、脂質異常症などのリスクが高まる可能性があります。そのため、少しでも気になる症状がある場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。
外科

手術を待つということ:待機的手術について

- 待機的手術とは待機的手術とは、緊急性を要しない手術のことを指します。つまり、心臓発作や事故など、すぐに手術を行わなければ生命に関わるような状況ではなく、計画的に手術日を決定できる場合に行われる手術です。例えば、長年続く膝の痛みのために人工関節を入れる手術や、徐々に大きくなる良性の腫瘍の摘出手術、白内障の手術などが挙げられます。これらの病気は、すぐに手術をしなくても命に関わることは少ないですが、生活の質を大きく左右する可能性があります。そのため、症状や生活への影響、手術のリスクなどを考慮し、医師と患者で相談の上、手術を行うタイミングを決定します。待機的手術の場合、患者は手術前に十分な時間をかけて、医師から病気の状態や手術の内容、術後の生活などについて説明を受けられます。また、必要な検査を受けて体調を整えたり、手術や入院に対する不安や疑問を解消したりする時間もあります。このように、患者は心身ともに準備を整えた上で手術に臨むことができる点が、待機的手術の大きなメリットと言えるでしょう。
呼吸器

聴診のポイント:断続性ラ音とは

聴診器を用いて呼吸音を評価する際、健常な状態では聞こえない音が聴取されることがあります。これらの音は、医学用語で副雑音と呼ばれ、その発生源や性質によって分類されます。肺や気道で発生する副雑音の一つにラ音があり、さらに連続性ラ音と断続性ラ音に分類されます。 連続性ラ音は、比較的長く続く音である点が特徴です。例として、高音でピーピーと聞こえる笛を吹くような音や、低音でグーグーといったいびきのように聞こえる音が挙げられます。これらの音は、気道が狭くなっている箇所を空気が通過する際に発生すると考えられています。 一方、断続性ラ音は、連続性ラ音とは対照的に、短く途切れ途切れに聞こえる音です。こちらは、ポツポツ、パチパチといった音で表現されることが多く、水ぶくれが弾けるような音に例えられることもあります。断続性ラ音は、閉塞していた気道が急に開く際に発生すると考えられています。
外科

腰痛治療の必需品:ダーメンコルセット

腰の痛みを和らげたり、腰への負担を軽くしたりするために用いられる医療用のコルセットをご存知でしょうか。それが「ダーメンコルセット」です。 ダーメンコルセットは、腰痛持ちの方だけでなく、腰を痛めた後や手術後にも用いられます。 コルセットには、その硬さによって、「硬性」、「半硬性」、「軟性」の3つの種類があります。この中で、ダーメンコルセットは、「軟性コルセット」に分類されます。 ダーメンコルセットは、特に柔らかい素材で作られているため、体に優しくフィットするのが特徴です。そのため、長時間装着していても、比較的快適に過ごすことができます。 しかし、コルセットはあくまで補助的なものです。装着すれば痛みが全てなくなるというわけではありません。 ダーメンコルセットを使用する際は、必ず医師の指示に従い、適切なサイズのものを選びましょう。また、装着方法を間違えると、効果が得られないばかりか、逆に身体に負担をかけてしまう可能性もあります。 医師や専門家の指導のもと、正しく使用することで、ダーメンコルセットは腰痛改善の心強い味方となってくれるでしょう。
脳・神経

体の痛みとは?:体性痛について解説

痛みは、その原因や症状、経過などから様々な分類がされます。痛みの種類を大きく分けると、体の組織の損傷が原因で起こる「侵害受容性疼痛」と、神経系の損傷や機能異常が原因で起こる「神経障害性疼痛」の二つに分けられます。この二つに加えて、心理的な要因が大きく関与している「心因性疼痛」を分類に含めることもあります。 「侵害受容性疼痛」は、組織損傷を知らせる役割を担っており、一般的にイメージされる痛みはこちらに分類されます。例えば、切り傷や火傷、骨折などのケガによる痛みや、虫歯、関節炎、内臓疾患などによる痛みなどが挙げられます。これらの痛みは、組織の炎症が治まるとともに軽減していくことが多いです。 一方、「神経障害性疼痛」は、神経系自体が損傷を受けたり、機能異常を起こしたりすることで発生します。神経は、体の各部位からの痛みや温度などの感覚情報を脳に伝える役割を担っていますが、この神経が損傷されると、本来は痛みとして認識されないような刺激が痛みとして感じられたり、弱い刺激でも激痛になったりすることがあります。また、損傷部位だけでなく、全く別の場所に痛みを感じたり、持続的な痛みや、しびれ、灼熱感などを伴うこともあります。 このように、痛みは一括りに考えることはできず、その原因や症状によって分類されます。適切な治療を行うためには、それぞれの痛みの特徴を理解し、原因に合わせた適切な治療法を選択することが重要です。
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