遺伝子

その他

がん抑制遺伝子RB:細胞のブレーキ役

- 網膜芽細胞腫とRB遺伝子の発見網膜芽細胞腫は、眼球の中に発生する悪性腫瘍です。主に乳幼児期に発症し、放置すると失明したり、命に関わることもあります。1970年代、この網膜芽細胞腫の研究が大きく進展しました。ある特定の遺伝子の異常が、網膜芽細胞腫の発症と深く関わっていることが明らかになったのです。 その遺伝子は、網膜芽細胞腫(Retinoblastoma)の頭文字をとってRB遺伝子と名付けられました。RB遺伝子は、その後、がんを抑制する働きを持つ遺伝子、すなわちがん抑制遺伝子であることが分かりました。細胞は、分裂を繰り返すことで増殖していきますが、この細胞分裂は、正常な状態では厳密にコントロールされています。RB遺伝子は、細胞分裂のサイクルを監視する役割を担っており、遺伝子の損傷など異常が生じた細胞の分裂を停止させたり、修復不可能な場合には細胞を自死に誘導することで、がん細胞の発生を抑制する働きをしています。しかし、RB遺伝子に異常が生じると、この細胞分裂のコントロール機能が失われてしまいます。その結果、細胞は異常な増殖を繰り返し、やがて腫瘍を形成してしまうのです。網膜芽細胞腫の場合、網膜の細胞でRB遺伝子に変異が生じると、細胞増殖が制御不能になり、腫瘍が形成されます。RB遺伝子の発見は、がんの発生メカニズムの解明に大きく貢献しました。現在では、RB遺伝子の異常は、網膜芽細胞腫だけでなく、様々な種類のがんに関わっていることが知られています。RB遺伝子の研究は、がんの予防や治療法の開発に繋がるものとして、今もなお世界中で進められています。
消化器

大腸がんとAPC遺伝子

近年、日本人の間で罹患率、死亡率ともに高いがんである大腸がん。早期発見、早期治療が重要となるこの病気は、食生活などの環境要因に加えて、遺伝的な要因も発症に深く関わっていることが分かっています。 実は、大腸がんの一部は遺伝によって引き起こされることがあり、その代表的な疾患が家族性大腸腺腫症です。この病気は、大腸に多数の腫瘍(腺腫)ができる病気で、放置すると若いうちから大腸がんを発症するリスクが高くなります。 家族性大腸腺腫症の原因として、APC遺伝子と呼ばれる遺伝子の異常が知られています。この遺伝子は、細胞の増殖をコントロールする役割を担っており、APC遺伝子に変異があると、細胞増殖のコントロールが効かなくなり、腫瘍ができやすくなると考えられています。 今回は、この家族性大腸腺腫症の原因遺伝子であるAPC遺伝子について、詳しく解説していきます。遺伝子の構造や機能、遺伝子変異と大腸がん発症の関係など、様々な側面から解説することで、家族性大腸腺腫症に対する理解を深めていきたいと思います。
小児科

ウィルムス腫瘍とWT1遺伝子

- ウィルムス腫瘍とはウィルムス腫瘍は、腎臓にできる悪性腫瘍です。悪性腫瘍は、一般的に「がん」と呼ばれる病気です。 小さいお子さんに発症することが多く、腎臓にできる腫瘍の中では最も多くみられます。日本では、毎年約100人の子供がウィルムス腫瘍と診断されています。ウィルムス腫瘍は、初期の段階では、ほとんど症状が現れません。そのため、健康診断や他の病気の検査で偶然発見されることも少なくありません。しかし、腫瘍が大きくなってくると、以下のような症状が現れるようになります。* お腹にしこりを触れる* 尿に血が混じる(血尿)* お腹の痛み* 発熱ウィルムス腫瘍は、早期に発見し、適切な治療を行えば治癒が期待できる病気です。そのため、お子さんに上記のような症状がみられる場合には、早めに医療機関を受診することが大切です。ウィルムス腫瘍の治療は、手術、抗がん剤を使った治療(化学療法)、放射線を使った治療(放射線療法)などを組み合わせて行います。治療法は、腫瘍の大きさや進行度、お子さんの年齢や全身状態などを考慮して決定されます。
血液

免疫の要!HLAと私たちの身体

- HLAとは何か?HLA(えいちえるえー)は、ヒト白血球抗原(じんはっけっきゅうこうげん)の略称で、私たちの体の細胞の表面にある、いわば名札のようなものです。この名札は、一人ひとり異なっており、自分自身の細胞と、そうでない細胞を見分けるために重要な役割を担っています。たとえば、風邪をひいたときや、体内に細菌が侵入したとき、私たちの体は免疫システムを使って、これらの病原体と戦います。このとき、HLAは、免疫細胞に「これは自分の細胞ではなく、敵である」ということを知らせる目印となり、免疫細胞が正確に病原体を攻撃するのを助けます。もし、HLAがない、あるいは正常に機能しない場合、免疫細胞は自分自身の細胞と、外敵を区別することができなくなってしまいます。その結果、自分自身の細胞を攻撃してしまう自己免疫疾患や、逆に、本来攻撃すべき病原体や異常な細胞を排除できず、感染症やがんになりやすくなる可能性があります。臓器移植の際にも、HLAの型が適合するかどうかが非常に重要です。提供者とレシピエントのHLAの型が大きく異なる場合、レシピエントの免疫システムは、移植された臓器を「自分のものではない」と認識し、攻撃してしまう可能性があります。これを拒絶反応といい、移植医療においては、いかに拒絶反応を抑えるかが大きな課題となっています。このように、HLAは、私たちの体の免疫システムにおいて、非常に重要な役割を担っています。HLAの研究が進歩することで、病気の治療法や予防法の開発、そして、より安全な臓器移植の実現につながることが期待されています。
その他

がん抑制の守護神:p53遺伝子

私たちの体は、常に新しく生まれ変わっています。古くなった細胞が新しく作り替えられることで、健康な状態を保つことができるのです。細胞が新しく生まれることを細胞分裂といいますが、細胞分裂は私たちの体の中で毎日、休むことなく繰り返されています。 この細胞分裂は、傷ついた組織を修復したり、体が成長していくためには欠かせないものです。しかし、細胞分裂は 正常な状態を保つために厳密に制御されている 必要があります。もしも細胞分裂が制御を失い、無秩序に進んでしまうと、がん細胞のように、際限なく増え続ける異常な細胞が出現する可能性があるからです。 p53遺伝子 は、細胞分裂の制御に深く関わる、重要な遺伝子です。p53遺伝子は、細胞のDNAに損傷が生じたことを感知すると、異常な細胞分裂が起きないようにブレーキをかける役割を担っています。もしもp53遺伝子に変異が生じ、その機能が失われてしまうと、細胞分裂の制御がうまくいかなくなり、がんの発症リスクが高まってしまうのです。
その他

遺伝子変異:そのメカニズムと影響

- 遺伝子変異とは私たち一人ひとりの体を作るための設計図、それが遺伝子です。この設計図には、体の様々な特徴や機能を決める情報が詰まっています。遺伝情報は、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)と呼ばれる4種類の塩基が、まるで文字のように一列に並んで記録されています。 遺伝子変異とは、この塩基配列に変化が起こることを指します。塩基の並び順が変わったり、一部が欠失したり、あるいは余分な塩基が挿入されたりすることで、遺伝子の情報が変わってしまうのです。遺伝子変異は、さまざまな要因によって引き起こされます。例えば、細胞分裂の際にDNAの複製ミスが起こったり、紫外線や放射線などの影響を受けたりすることで、塩基配列が変化することがあります。また、親から受け継いだ遺伝子に、すでに変異が生じている場合もあります。遺伝子変異の中には、私たちの体に影響を及ぼさないものもたくさんあります。しかし、場合によっては、特定の病気のリスクを高めたり、発症時期を早めたりすることがあります。例えば、がん細胞では多くの遺伝子変異が見つかっており、これらの変異ががんの発生や悪性化に繋がると考えられています。一方で、薬の効き方や副作用の出やすさに影響を与える遺伝子変異もあり、オーダーメイド医療への応用が期待されています。
その他

遺伝子の変化:遺伝子変異とその影響

私たちの体は、細胞という小さな単位が集まってできています。そして、その細胞の一つひとつの中に、遺伝子と呼ばれる設計図が存在します。この遺伝子は、まるで生命の設計図のようなもので、私たちの体の特徴や機能を決めるための情報を担っています。 遺伝子は、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)と呼ばれる4種類の塩基が、まるでビーズのように一列に並んで構成されています。この塩基の並び方が、遺伝情報の内容を決める重要な役割を担っています。 遺伝子変異とは、この塩基の並び順、つまり塩基配列に変化が生じることを指します。遺伝子変異が起こると、場合によっては、本来の遺伝情報とは異なる情報が作られることになります。これは、ちょうど設計図の一部が書き換えられるようなもので、体の特徴や機能に影響を及ぼすことがあります。 遺伝子変異は、自然発生的に起こることもあれば、紫外線や放射線、特定の化学物質などの影響によって発生する可能性もあります。遺伝子変異は、進化の原動力となることもありますが、がんなどの病気の原因となることもあります。
血液

免疫の要!HLAと私たちの身体

- HLAとは何かHLAとは、ヒト白血球抗原(Human Leukocyte Antigen)の略称で、私たちの体を守る免疫システムにおいて、非常に重要な役割を担うものです。 私たちの体の中にある細胞は、それぞれ表面に「自分自身の細胞である」ことを示すマークをつけています。このマークがHLAであり、いわば細胞の「顔写真」のようなものです。免疫細胞は、体の中を常にパトロールして、侵入してきた細菌やウイルスなどの病原体や、体内で発生した異常な細胞(がん細胞など)を見つけ出して攻撃します。この時、免疫細胞は細胞の表面に提示されたHLAをチェックします。自分自身の細胞が持つHLAであれば「味方」、そうでないHLAであれば「敵」と認識し、攻撃するかどうかを判断します。 つまり、HLAは免疫細胞が「自己」と「非自己」を区別するために不可欠なものであり、私たちの体を病気から守る上で非常に重要な役割を担っているのです。HLAは、非常に多くの種類が存在し、その組み合わせは個人によって異なります。そのため、HLAは臓器移植の際に、適合性を判断する重要な指標として用いられています。適合しないHLAを持つ者同士で臓器移植を行うと、拒絶反応が起こる可能性が高くなるためです。
その他

タンパク質合成の設計図:mRNA

私たちの体は、様々な種類のタンパク質からできています。骨や筋肉、血液など、体を作る様々なパーツはタンパク質からできており、体の中で起こる化学反応も、タンパク質が大きく関わっています。毎日新しい細胞が作られ、古くなった細胞が壊されるように、タンパク質も、常に作られ、分解されています。では、細胞はどのようにして、膨大な種類のタンパク質の中から、必要なものを、必要な時に、必要な量だけ作り出すことができるのでしょうか? その鍵を握るのが、遺伝情報の通り道です。遺伝情報は、細胞の核の中にあるDNAに保存されています。DNAは、いわば体の設計図のようなものです。設計図であるDNAの情報に基づいてタンパク質が作られるのですが、DNAは細胞の核の外に出ることができません。そこで、DNAの情報は、mRNAと呼ばれる物質に「転写」されます。mRNAはDNAの情報の一部を写し取ったもので、核の外に出ることができます。 mRNAは、細胞質にあるリボソームという場所に移動し、そこでタンパク質合成の鋳型となります。リボソームは、mRNAの情報を読み取り、その情報に基づいてアミノ酸を順番につなげていきます。こうして、DNAの情報に基づいたタンパク質が合成されるのです。このように、DNA→mRNA→タンパク質という流れは、遺伝情報が細胞の中で伝達される基本的な流れであり、「セントラルドグマ」と呼ばれています。
その他

タンパク質合成の設計図:mRNA

私たちの体は、天文学的な数の細胞が集まってできています。それぞれの細胞は、まるで巨大な組織の歯車のように、決められた役割を忠実に果たしています。そして、細胞がその役割を全うするためには、様々な種類のタンパク質が欠かせません。タンパク質は、細胞の形を維持したり、細胞内の化学反応を助けたり、さらには細胞同士の情報伝達を担ったりと、まさに細胞活動の要と言えるでしょう。では、細胞はどのようにして、このような重要なタンパク質を作り出しているのでしょうか?その秘密は、遺伝情報の通り道にあります。 遺伝情報は、すべての生物の設計図とも言えるもので、細胞の核に存在するDNAに大切に保管されています。DNAには、タンパク質を作るための情報が、まるで暗号のように書き込まれているのです。しかし、DNAは非常に重要な情報を持つため、核の外に出ることは許されていません。そこで、DNAの代わりに、mRNA(メッセンジャーRNA)という物質が登場します。mRNAは、DNAに書かれた遺伝情報を写し取り、核の外にあるタンパク質合成工場へと運び出す役割を担っています。このように、DNAからmRNAへ、そしてmRNAからタンパク質へと、遺伝情報は正確に伝えられていくのです。
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