消化の司令塔:アウエルバッハ神経叢
食べ物を口にした後、それがどのようにして胃腸へと運ばれ、消化・吸収されていくのか考えたことはあるでしょうか。私達の体には、まるで精巧なパイプラインのように張り巡らされた消化管が存在し、その働きを支えているのが「消化管の運動を支配する神経ネットワーク」です。
消化管の運動において中心的な役割を担っているのが、「アウエルバッハ神経叢」と呼ばれる神経細胞のネットワークです。これは、食道から直腸に至るまで、消化管全体を包み込むように存在しています。この神経叢は、消化管の壁、特に食べ物の移動に関わる筋肉層に位置し、消化管の運動をコントロールする司令塔の役割を担っています。
アウエルバッハ神経叢は、大きく分けて二つの神経細胞、つまり信号を送る神経細胞と受け取る神経細胞から構成されています。食べ物が消化管に運ばれてくると、その情報はまず感覚神経細胞によって受け取られます。そして、その情報がアウエルバッハ神経叢に伝達されると、神経細胞間で電気信号がやり取りされ、筋肉を収縮させる指令が出されます。この指令により、私達が意識することなく、消化管は食べ物を先へと送り出す「蠕動運動」や、消化液を分泌する運動などをスムーズに行うことができるのです。
興味深いことに、アウエルバッハ神経叢は、私達の意志とは関係なく働く自律神経系によってコントロールされています。つまり、私達が寝ている間も、運動している間も、休むことなく働き続けているのです。この自律神経系による制御のおかげで、私達は消化管の運動を意識的にコントロールすることなく、生命活動を維持するために必要な栄養を摂取し続けることができるのです。