食物の通り道:食道の役割と構造
病院での用語を教えて
「食道」の構造で、「漿膜を欠く」とありますが、漿膜がないことで何か影響はあるのですか?
体の健康研究家
いい質問ですね。漿膜は、臓器の表面を覆う薄い膜で、臓器同士の摩擦を防いだり、滑りを良くしたりする役割があります。食道にはこの漿膜がないため、どのような影響が出るか、考えてみましょう。
病院での用語を教えて
摩擦を防ぐものがないということは、周りの組織とくっつきやすくなるということでしょうか?
体の健康研究家
その通りです。漿膜がないことで、食道がんができた場合、周囲の組織に広がりやすいという特徴があります。食道がんの進行の速さや手術の難しさにも関係してくるので、重要なポイントですね。
食道とは。
「のみくだり道」は、のどと胃をつなぐ、直径約2センチ、長さ約25センチの管で、食べ物の通り道です。普段はぺたんこになっていて、食べ物が通るときだけ大きく広がります。口から入った食べ物を、のみくだり道の壁の筋肉のうねうねとした動きで胃に送り込む働きをしています。のみくだり道自体には、食べ物を消化する機能はありません。のどの奥にある、輪状軟骨という軟骨のすぐ下から始まり、胃の入り口が最後の部分です。のみくだり道は、上から順に、気管と背骨の間、左右の肺の真ん中にある隙間、心臓の後ろを通り、横隔膜を突き抜けてお腹に入ったところで胃につながります。
■構造
<のみくだり道の両端部分>
のみくだり道の入り口には、上部のみくだり道括約筋という輪状の筋肉があり、食べ物を感じるとうねうねとした動きを起こす働きがあります。のみくだり道の最後の部分、胃との境目には、下部のみくだり道括約筋があり、食べ物を胃に送り込むと同時に、胃の内容物が逆流するのを防いでいます。
<のみくだり道>
上から、首の部分、胸の部分、お腹の部分の3つに分かれていて、胸の部分が最も長く、お腹の部分は胃とつながるほんのわずかな長さの部分です。食べ物を胃に送り込む作業は、のみくだり道を覆う筋肉が担っています。首の部分は横紋筋、下にいくにしたがって平滑筋が増え、胸の部分と腹部は平滑筋が主になります。
<のみくだり道の壁>
粘膜上皮、粘膜固有層、粘膜筋板、粘膜下層、固有筋層、外膜の6層でできており、漿膜はありません。粘膜上皮は、平たい細胞が何重にも重なってできています。粘膜固有層は、様々な機能を持つ細胞が存在する、やわらかい結合組織です。粘膜筋板は、消化管を覆う、柔軟で強い筋肉の膜です。固有筋層は、筋肉の膜です。外膜は、内臓の一番外側を囲む膜で、粘膜下部にある筋肉層を囲みます。のみくだり道には、多くの内臓に存在する漿膜がなく、のみくだり道にがんができると外側に広がりやすいです。
<生まれつき狭い部分>
のみくだり道には、以下の3つの生まれつき狭い部分があります。これを生理的狭窄部といいます。この狭い部分は病気ではなくても、食べ物が飲み込みにくいと感じる場合があります。
第1狭窄部:のみくだり道の入り口
第2狭窄部:大動脈弓・気管分岐部
第3狭窄部:食道裂孔部
■のみくだり道のうねうねとした動きの働き
よく噛まれた食べ物が飲み込まれ、のみくだり道の粘膜に触れると、上部のみくだり道括約筋が収縮します。この動きが順々に下の筋肉に伝わり、うねうねとした動きを生み出します。うねうねとした動きが下部のみくだり道括約筋に届くと、下部のみくだり道括約筋が緩み、胃に食べ物を送り込みます。
■のみくだり道の不調によって起こる主な病気
・のみくだり道がん
のみくだり道に悪性の腫瘍ができる病気です。
・バレットのみくだり道
のみくだり道の平たい細胞でできた粘膜が、胃の粘膜に似た円柱上皮になる病気です。
・のみくだり道炎
何らかの化学的・物理的な刺激によって、のみくだり道に炎症が起きる病気です。
・のみくだり道アカラシア
のみくだり道と胃が接合する部分の筋肉の弛緩不全により、食べ物の通過障害が起きる病気です。
・のみくだり道カンジダ症
真菌であるカンジダがのみくだり道内で増殖し、飲み込むときの痛みや、飲み込みづらさを引き起こす病気です。
・マロリー・ワイス症候群
嘔吐を繰り返すことで、のみくだり道と胃の接合部近くに裂傷を生じ、大量出血を起こす病気です。
・特発性のみくだり道破裂
のみくだり道内圧が急速に上昇し、のみくだり道が破裂する原因不明の病気です。
・のみくだり道静脈瘤
肝臓疾患などが原因で門脈圧が亢進し、肝臓内の血液の流れに異常をきたし、その結果、のみくだり道静脈に大量に血液が送り込まれて瘤(こぶ)ができ、そのこぶが大きくなり、血液の流れが滞る病気です。
食物の通り道、食道とは
私たちは毎日食事を楽しみますが、口にした食べ物がどのようにして体の中に取り込まれていくのか、詳しく知る人は少ないかもしれません。食べ物の入り口である口から、栄養を吸収する胃までをつなぐ重要な器官、それが「食道」です。
食道は、ちょうど口と胃を繋ぐパイプのようなもので、長さは約25cmあります。普段は食べ物が通らない時は、薄い板状の形をしていますが、食べ物が通過する際には大きく広がり、その柔軟性によって食べ物をスムーズに胃へと送り込みます。
食道自体には、食べ物を消化する機能はありません。しかし、内壁にある筋肉が規則的に収縮と弛緩を繰り返す「蠕動運動」によって、食べ物を胃へと押し出すという重要な役割を担っています。この蠕動運動のおかげで、私たちは重力に逆らって食べ物を飲み込むことができるのです。
このように、食道は食べ物を胃に運ぶだけの単純な管のように思えるかもしれません。しかし実際には、柔軟性と蠕動運動という2つの特徴によって、私たちが食事を安全かつスムーズに楽しむために、重要な役割を担っているのです。
器官 | 長さ | 形状 | 機能 | 特徴 |
---|---|---|---|---|
食道 | 約25cm |
|
食べ物を胃に運ぶ |
|
食道の構造
食べ物を口から胃へ運ぶ管である食道は、大きく分けて三つの部分で構成されています。
まず、食べ物が最初に通過するのが上部食道括約筋と呼ばれる部分です。ここは、のどの奥、ちょうど咽頭と食道の境目に位置しています。この上部食道括約筋は、食べ物が入ってくるのを感知すると、反射的に緩んで食道への入り口を開きます。
次に、食道本体は、食べ物が胃に到達するまで通過する細長い管です。この管は、首を通る頸部食道、胸を通る胸部食道、お腹の中の上部を通る腹部食道という三つの部分に分けられます。それぞれの部分は、周囲にある臓器や骨との位置関係が異なります。
最後に、胃の入り口に位置するのが下部食道括約筋です。ここは、食道と胃の境目にあり、食べ物が胃に送り込まれると、筋肉が収縮して入り口を閉じます。これにより、胃の中で消化が始まった食べ物が食道へ逆流するのを防いでいます。このように、食道の各部分は、それぞれ重要な役割を担い、食べ物を胃へスムーズに運ぶ働きを支えています。
食道の部位 | 場所 | 役割 |
---|---|---|
上部食道括約筋 | のどの奥、咽頭と食道の境目 | 食べ物がくると緩んで食道への入り口を開く |
食道本体 ・頸部食道 ・胸部食道 ・腹部食道 |
首から胃の上部まで続く細長い管 ・首を通る部分 ・胸を通る部分 ・お腹の上部を通る部分 |
食べ物が胃に到達するまで通過する |
下部食道括約筋 | 胃の入り口、食道と胃の境目 | 食べ物が胃に送り込まれると収縮して入り口を閉じ、逆流を防ぐ |
食道の壁の構造
– 食道の壁の構造食べ物を胃に送り届ける器官である食道は、その重要な役割を果たすために、内側から外側へ向かって複数の層が重なり合った構造をしています。最も内側にある層は粘膜上皮と呼ばれ、ここを食物が通過します。この粘膜上皮は、食べ物が通過する際の摩擦から食道自身を守る、いわばバリアのような役割を担っています。粘膜上皮の下には、粘膜固有層と呼ばれる層が広がっています。粘膜固有層には、血管やリンパ管が網目のように張り巡らされており、食道への栄養供給や、体内に入ってきた異物から体を守る免疫機能に大きく関わっています。さらにその下には、粘膜筋板と呼ばれる薄い筋肉の層が存在します。粘膜筋板は、食道全体の運動を細かく制御する役割を担っており、食物をスムーズに胃へと送り届けるために欠かせない存在です。粘膜筋板の下には、粘膜下層と呼ばれる結合組織の層が広がっており、粘膜筋板と、その下にある固有筋層と呼ばれる筋肉の層の間を埋めるように存在しています。固有筋層は、食道の特徴的な運動である蠕動運動を生み出す筋肉の層です。蠕動運動とは、筋肉が波打つように収縮と弛緩を繰り返すことで、食べ物を胃へと押し進める運動のことです。この固有筋層は、さらに内側の層と外側の層に分かれており、それぞれ輪状筋、縦走筋と呼ばれています。そして、最も外側にあるのが外膜です。外膜は、食道と周囲の臓器との間を隔てる役割を担っており、心臓や肺など、他の重要な臓器との摩擦を防ぐ役割を果たしています。このように、食道の壁は、複数の層がそれぞれ重要な役割を担うことによって、私達が食事を摂り、そしてそれを消化吸収していく上で、無くてはならない働きを支えています。
層 | 説明 |
---|---|
粘膜上皮 | 最も内側の層。食物が通過する際の摩擦から食道自身を守る。 |
粘膜固有層 | 血管やリンパ管が網目のように分布。栄養供給や免疫機能に関わる。 |
粘膜筋板 | 薄い筋肉の層。食道全体の運動を細かく制御し、食物をスムーズに胃へ送る。 |
粘膜下層 | 結合組織の層。粘膜筋板と固有筋層の間を埋める。 |
固有筋層 | 食道の蠕動運動を生み出す筋肉の層。内側の輪状筋と外側の縦走筋に分かれる。 |
外膜 | 最も外側の層。食道と周囲の臓器との間を隔て、摩擦を防ぐ。 |
食道の蠕動運動
– 食道の蠕動運動
私たちは普段何気なく食事をしていますが、口にした食べ物がどのようにして胃まで運ばれているのか、考えたことはあるでしょうか? 実はその陰には、「食道の蠕動運動」と呼ばれる巧みなシステムが隠されているのです。
食べ物が口から食道へと送られると、食道の内壁に張り巡らされたセンサーが、食べ物の存在を感知します。 このセンサーは、食べ物の温度や硬さ、大きさなどを瞬時に見極め、その情報を脳へと伝達します。
情報をキャッチした脳は、まるで指揮者の如く、食道の筋肉に対して的確な指示を出します。すると、食道の上部から下部にかけて、筋肉が順番に収縮と弛緩を繰り返す、波のような運動が始まります。これが「蠕動運動」です。
蠕動運動は、まるでベルトコンベアの様に食べ物を胃へと運びます。しかも、その力は非常に強力で、たとえ逆立ちをした状態でも、食べ物を胃へと送り届けることが可能です。 つまり、重力に逆らって食べ物を運ぶことができるのです。
このように、食道の蠕動運動は、私達が食事を楽しむ上で、無くてはならない非常に重要な役割を担っていると言えるでしょう。
プロセス | 詳細 |
---|---|
食物感知 | 食道の内壁センサーが食物の温度、硬さ、大きさを感知し、脳に伝達 |
蠕動運動開始 | 脳の指示で、食道上部から下部へ筋肉が順に収縮と弛緩を繰り返し、波状運動(蠕動運動)が発生 |
食物輸送 | 蠕動運動により、食物はベルトコンベアのように胃へ運ばれる(逆立ち状態でも可能) |
食道の病気
– 食道の病気について食道は、口から摂取した食べ物を胃に運ぶ大切な器官ですが、様々な病気が発生することが知られています。ここでは、代表的な食道の病気について詳しく解説します。まず、食道がんは、食道の細胞ががん化する病気です。初期段階ではほとんど自覚症状がないため、早期発見が非常に重要となります。進行すると、食べ物が飲み込みにくくなる、胸の奥に痛みを感じるなどの症状が現れます。食道がんのリスク因子としては、喫煙、過度な飲酒、熱い飲み物や刺激物の frequent な摂取などが挙げられます。次に、逆流性食道炎は、胃酸や胃の内容物が食道に逆流することで、炎症や胸やけなどの症状を引き起こす病気です。脂肪分の多い食事、甘いもの、アルコール、カフェインなどは、胃酸の分泌を促進させるため、逆流性食道炎を悪化させる可能性があります。また、食後すぐに横になったり、肥満などもリスク因子となります。食道アカラシアは、食道と胃の境目にある下部食道括約筋という筋肉がうまく機能しなくなり、食べ物が胃にスムーズに流れなくなる病気です。主な症状としては、食事の際に食べ物がつかえる、胸の後ろに痛みや不快感を感じる、嘔吐などが挙げられます。原因は不明な点が多いですが、自己免疫疾患や神経系の異常などが関与していると考えられています。その他にも、食道の血管に異常が生じる食道静脈瘤や、食道の一部が横隔膜の隙間に入り込んでしまう食道裂孔ヘルニアなど、様々な病気が知られています。食道は、私たちが健康的な生活を送る上で欠かせない器官です。食道の病気は、早期発見・早期治療が大切となるため、少しでも異変を感じたら、速やかに医療機関を受診するようにしましょう。
病気 | 症状 | リスク因子・原因 |
---|---|---|
食道がん | 初期はほぼ無症状 進行すると、嚥下困難、胸痛など |
喫煙、過度な飲酒、熱い飲み物や刺激物のfrequentな摂取 |
逆流性食道炎 | 炎症、胸やけなど | 脂肪分の多い食事、甘いもの、アルコール、カフェイン、食後すぐに横になる、肥満 |
食道アカラシア | 食事の際に食べ物がつかえる、胸の後ろに痛みや不快感、嘔吐など | 原因不明(自己免疫疾患や神経系の異常などが考えられる) |
食道静脈瘤 | 食道の血管に異常が生じる | |
食道裂孔ヘルニア | 食道の一部が横隔膜の隙間に入り込む |