沈黙の臓器からの警告：門脈圧亢進症を知る

沈黙の臓器からの警告：門脈圧亢進症を知る

門脈とは？

私たちの体には、全身に張り巡らされた血管のネットワークがあります。このネットワークを流れる血液は、酸素や栄養を体の隅々まで届け、不要なものを運び去るという重要な役割を担っています。

「門脈」も、この血管ネットワークの一部であり、特に消化器官と肝臓を結ぶ太い血管を指します。食べ物を消化・吸収する胃や腸、そして血液の貯蔵庫である脾臓などは、門脈を通じて肝臓とつながっています。

門脈が運ぶ血液は、消化器官で吸収された栄養分を豊富に含んでいます。この栄養豊富な血液は、肝臓に運ばれ、そこで体に必要な栄養素へと作り変えられたり、貯蔵されたり、あるいは不要なものを解毒したりします。つまり、門脈は、体に必要な栄養を供給し、健康を維持するために重要な役割を担っていると言えるでしょう。

門脈圧亢進症とは？

– 門脈圧亢進症とは？私たちの体内には、全身に張り巡らされた血管とは別に、胃や腸などの消化管と肝臓をつなぐ特別な血管があります。これを門脈と呼びます。通常、門脈内の血液はスムーズに肝臓へと流れ込みますが、様々な原因によって門脈内の血圧（門脈圧）が慢性的に高くなることがあります。これを門脈圧亢進症と呼びます。健康な状態では門脈圧は100～150mmH₂O 程度ですが、門脈圧亢進症では200mmH₂O 以上にまで上昇し、様々な症状を引き起こします。主な症状としては、食道や胃の静脈が膨らんでしまう食道静脈瘤や胃静脈瘤、お腹に水が溜まる腹水、脾臓が腫れてしまう脾腫などが挙げられます。門脈圧亢進症を引き起こす原因は様々ですが、中でも多いのは肝臓の病気です。肝硬変や肝臓がんなどによって肝臓の組織が硬くなってしまうと、門脈内の血液がスムーズに流れなくなってしまい、門脈圧が上昇しやすくなります。また、肝臓の外で門脈が詰まってしまう血栓なども、門脈圧亢進症の原因となります。門脈圧亢進症は命に関わる合併症を引き起こす可能性もあるため、早期発見・早期治療が重要です。

主な症状：静かなる進行

– 主な症状静かなる進行門脈圧亢進症は、初期の段階では自覚できる症状がほとんど現れず、静かに病気が進行していくことが大きな特徴です。そのため、健康診断などで指摘されるまで、自分が病気であることに気づかない場合も少なくありません。自覚症状としては、疲れやすさや食欲不振、お腹の張りなどがありますが、これらの症状は他の病気でもよくみられるため、門脈圧亢進症と結びつけにくい点が診断を難しくしています。しかし、病状が進行すると、様々な合併症を引き起こすようになります。代表的なものとしては、食道や胃の静脈が拡張して瘤となる食道静脈瘤、お腹に水が溜まる腹水、脾臓が腫れて大きくなる脾腫などがあります。これらの合併症は、吐血や腹水による呼吸困難、脾臓の破裂などを引き起こし、生命を脅かす可能性もあるため注意が必要です。門脈圧亢進症は、早期に発見し、適切な治療を行うことで、合併症のリスクを減らし、進行を遅らせることができます。そのためにも、定期的な健康診断の受診や、少しでも体に異変を感じたら、早めに医療機関を受診することが重要です。

食道静脈瘤：命に関わる合併症のリスク

食道静脈瘤は、門脈圧亢進症という、門脈と呼ばれる肝臓への血液の通り道で圧力が異常に高くなる病気の合併症の一つです。この病気になると、本来肝臓に向かうはずの血液が行き場を失い、食道や胃の静脈に流れ込みます。その結果、これらの静脈は拡張し、瘤のように膨らんでしまいます。これが食道静脈瘤です。
食道静脈瘤は、放置すると大変危険です。瘤の壁は薄く、ちょっとした刺激で破裂しやすくなっています。もし破裂すると、大量出血を引き起こし、命に関わる事態になりかねません。出血が起こると、吐血や下血といった症状が現れます。また、出血による貧血で、顔面蒼白や倦怠感、意識障害なども引き起こされることがあります。
食道静脈瘤は自覚症状が出にくい病気であるため、定期的な検査で早期発見することが非常に重要です。また、食道静脈瘤と診断された場合、出血を予防するための適切な治療を受ける必要があります。治療法には、薬物療法や内視鏡的治療などがあります。食生活の改善も重要で、飲酒や香辛料の摂取を控えるなどの指導が行われます。
食道静脈瘤は命に関わる病気ですが、早期発見と適切な治療によって、危険を減らすことができます。

腹水：お腹に水が溜まる

お腹に水が溜まる状態を「腹水」と言います。腹水は、主に肝臓の病気によって引き起こされます。肝臓は、体内の様々な働きを担う重要な臓器ですが、この肝臓に病気があると、血液の流れが悪くなり、門脈と呼ばれる血管の圧力が高くなります。これが「門脈圧亢進症」です。門脈圧亢進症が進行すると、血管から水分が血管の外にしみ出し、お腹の中に溜まってしまうのです。
腹水が溜まると、お腹が張ったり、痛みを感じたりすることがあります。また、腹水が溜まることで、横隔膜という呼吸を助ける筋肉が圧迫され、息苦しさを感じることもあります。さらに、食欲不振や吐き気、足のむくみなどの症状が現れることもあります。
腹水の治療は、その原因や症状の程度によって異なります。一般的には、まず食事療法として塩分を控えた食事を心がけ、利尿剤などの薬物療法を併用して、体内の水分を排出するように促します。しかし、これらの治療で効果が見られない場合や、呼吸困難などの症状が強い場合には、「腹水穿刺」という処置が必要になることもあります。これは、お腹に針を刺して、溜まった腹水を体外に排出する処置です。

早期発見と治療が鍵

– 早期発見と治療が鍵

門脈圧亢進症は、初期段階ではほとんど自覚症状がないため、自覚症状だけで異常に気づくことは容易ではありません。そのため、健康診断や人間ドックなどで定期的に検査を受けることが、早期発見の最も確実な方法と言えるでしょう。

門脈圧亢進症は放置すると、食道や胃の静脈瘤破裂による吐血や、腹水、肝性脳症といった深刻な合併症を引き起こす可能性があります。しかし、早期に発見し、適切な治療を開始することで、これらの合併症のリスクを大幅に減らし、生活の質を維持しながら病気と長く付き合っていくことが期待できます。

門脈圧亢進症は、食欲不振や体重減少、疲労感、黄疸、腹部の膨満感などの症状が現れることがあります。これらの症状は他の病気でも見られることがありますが、少しでも気になる症状がある場合は、放置せずに早めに医療機関を受診し、専門医の診断を受けることが重要です。自己判断はせず、専門家の意見を仰ぐようにしましょう。

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