パターナリズムとは何か
病院での用語を教えて
先生、「パターナリズム」って医学や健康の分野でよく聞く言葉だけど、具体的にどういう意味なの?
体の健康研究家
良い質問だね!簡単に言うと、「お医者さんの方が患者さんより知識や経験が上だから」という理由で、患者さんの意見を十分に聞かずに、治療方針を決めてしまうことと言えるかな。
病院での用語を教えて
なるほど。でも、お医者さんの言うことの方が正しいことが多いんじゃないの?
体の健康研究家
もちろん、お医者さんの言うことは大切だよ。でも、どんな治療を受けるかは、最終的には患者さん自身が自分で決める権利があるんだよ。パターナリズムは、その権利をないがしろにしているという点で、問題視されているんだ。
パターナリズムとは。
「医学や健康の分野で使われる『パターナリズム』という言葉があります。これは、力のある立場の人が、弱い立場の人に対して、その人のためになるとの理由で、その人の意思に反して行動を制限したり、口出ししたりすることを指します。日本語では『家父長主義』や『父権主義』といった言葉で言い表されることもあります。
パターナリズムの定義
– パターナリズムの定義パターナリズムとは、一般的に「お節介」や「余計なお世話」と認識されがちな行動を指します。たとえば、子供が自らの意思でやりたいと思っていないにもかかわらず、親が「将来のためになる」という善意から強制的に習い事をさせる、といった状況を想像してみてください。あるいは、医師が患者の治療方針に関する自己決定権を十分に尊重せず、一方的に治療内容を決めてしまうケースも考えられます。これらの行為は、一見すると親切心や善意に基づいているように見えます。しかし、パターナリズムは、相手の自主性や自律性を尊重していないという点で問題視されることがあります。たとえそれが良かれと思ってのこと、あるいは正しいと思われる選択であったとしても、本人の意思を無視して行動を制限することは、個人の自由や権利を侵害する可能性を孕んでいます。パターナリズムが特に問題となるのは、医療現場や福祉の場面です。医療従事者や福祉の専門家は、専門知識や経験に基づいて、患者や利用者にとって最善と思われる行動をとろうとします。しかし、その際、患者や利用者自身の価値観や希望を十分に考慮しなければ、パターナリズムに陥ってしまう可能性があります。重要なのは、常に相手の立場に立って考え、その人の意思決定を尊重することです。たとえ相手の選択が、自分にとって理解し難いものであったとしても、その選択を尊重することが、真の意味での善意と言えるのではないでしょうか。
パターナリズムの定義 | 具体例 | 問題点 | 特に問題となる場面 | 重要なこと |
---|---|---|---|---|
「お節介」や「余計なお世話」と認識されがちな、相手の自主性や自律性を尊重していない行動 | – 親が子の意思を無視して習い事をさせる – 医師が患者の自己決定権を尊重せずに治療方針を決める |
親切心や善意に基づいているように見えても、個人の自由や権利を侵害する可能性がある | 医療現場や福祉の場面 | 相手の立場に立って考え、その人の意思決定を尊重すること |
医療におけるパターナリズム
– 医療におけるパターナリズム
医療の現場では、かつては医師が患者に対して父親のように接することが少なくありませんでした。これは、医師が専門的な知識や豊富な経験に基づいて、患者にとって最も良い医療行為は何なのかを判断し、患者はその判断に従うべきだと考えられていたからです。医師は医療の専門家として、患者にとって最善の道を選択し、患者はそれを受け入れるという、いわば一方通行の関係が成り立っていました。
しかし、時代は変化し、近年では患者の権利に対する意識が高まり、十分な説明を受けた上で同意する「インフォームド・コンセント」の重要性が認識されるようになってきました。それに伴い、医師と患者の関係も大きく変化し、かつてのような上下関係ではなく、対等なパートナーとして協力し合う関係へと変化してきたのです。
患者は自身の病気の状態や治療方法について、医師から分かりやすく丁寧に説明を受ける権利を持ちます。そして、その説明を受けた上で、自分の意思に基づいて治療を受けるかどうか、どの治療法を選択するかなどを決定する権利を持つのです。これは、患者が自身の体と健康に関する自己決定権を尊重され、主体的に医療に参加することを意味します。
過去 | 現在 |
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医師と患者の関係は、医師が患者よりも優位に立つ、いわば「父権主義的な医療」が主流であった。 | 医師と患者は対等なパートナーとして協力し合う関係へと変化した。 |
医師は専門家として最善の医療行為を判断し、患者はその判断に従うものとされていた。 | 患者は自身の病気や治療について十分な説明を受け、理解した上で治療を受けるかどうか、どの治療法を選択するかなどを決定する権利を持つ。 |
パターナリズムの功罪
「自分の頭で考えて、自分のことは自分で決める」のが当然だと言われるかもしれません。しかし、現実には、必ずしもそうとは限らない場合があります。たとえば、今まさに自ら命を絶とうとしている人や、重い認知症のために自分自身に危害を加えてしまうかもしれない人に対して、周囲の人間が何もせずにただ見過ごすことが正しい行動と言えるでしょうか?
このような場合、周囲の人間が介入することで、結果的にその人を守ることができるかもしれません。これが、パターナリズムと呼ばれる考え方です。
パターナリズムは、時に「おせっかい」とも捉えられます。しかし、本人の判断能力が不十分な場合や、一刻を争うような緊急事態においては、周囲の介入が必要となるケースもあるのです。
ただし、たとえこのような状況であっても、可能な限り本人の意思を尊重し、その人の自由を奪わないように配慮することが重要です。パターナリズムはあくまで、その人を守るための最終手段として、慎重に判断されなければなりません。
パターナリズムとは | 例 | 注意点 |
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本人の判断能力が不十分な場合や緊急事態において、周囲の人間が介入すること | 自殺しようとしている人、認知症で自身に危害を加えうる人 |
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現代社会におけるパターナリズム
現代社会において、個人主義や自由主義は深く浸透し、一人ひとりが自身の意思決定や行動の自由を尊重されるべきという考え方が広まっています。かつては、目上の人や権威者が、たとえ本人の意に反していても、それがその人のためになると信じて行動を制限したり、決定を替わりに下したりすることがありました。このような行動は、パターナリズムと呼ばれ、かつては社会的に許容される範囲も広かったと言えるでしょう。
しかし、現代社会では、このような露骨なパターナリズムは、個人の尊厳や自律性を軽視するものとして、批判の対象となりやすくなっています。
一方で、現代社会は、情報があふれ、物事が複雑化している側面も持ち合わせています。そのため、常に個人が十分な情報と冷静な判断力に基づいて、最適な選択を行えるとは限りません。特に、子どもや高齢者、病気や障害を持つ人など、判断能力や情報収集能力が十分ではない人々にとっては、周囲の適切なサポートや保護が必要となる場面も少なくありません。このような状況においては、弱い立場にある人々を危険から守ったり、不利益を被らないようにするため、ある程度のパターナリズム的な介入が必要とされる場合もあると言えるでしょう。
重要なのは、個人の自律性を尊重することと、真にその人を守るための介入の必要性との間で、適切なバランスを見極めることと言えるでしょう。
現代社会の状況 | パターナリズム |
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個人主義、自由主義が浸透し、個人の意思決定や行動の自由が尊重される。 | かつては許容されていたが、現代社会では個人の尊厳や自律性を軽視するものとして批判される傾向にある。 |
情報過多、複雑化により、常に個人が最適な選択を行えるとは限らない。特に、判断能力や情報収集能力が十分ではない人々にとっては、周囲のサポートや保護が必要となる場合がある。 | 弱い立場にある人々を危険から守ったり、不利益を被らないようにするため、ある程度のパターナリズム的な介入が必要とされる場合もある。 |
まとめ
「よかれと思ってやったのに」という言葉は、時に相手を傷つけ、思わぬ誤解を生むことがあります。特に、医療の現場においては、患者さんの人生や価値観、そしてその選択を尊重することが何よりも大切です。しかしながら、目の前の患者さんの健康と安全を守るという医師としての使命感から、ついつい「おせっかい」ともとれる言動をしてしまいそうになる、そんなジレンマに悩まされる場面も少なくありません。
確かに、患者さんの自主性を尊重することは非常に重要です。ご自身の病気や治療について、しっかりと理解し、納得した上で決断を下す権利は誰しもが持っているからです。しかし一方で、患者さんの置かれている状況や精神状態によっては、十分な判断能力を発揮することが難しい場合もあるでしょう。例えば、病気の進行によって意識が朦朧としていたり、精神的なショックで冷静さを欠いている場合などが考えられます。
このような状況下では、医師は患者さんの「最善の利益」を守るために、一時的にでも介入が必要となることがあります。これが、医療における「パターナリズム」と呼ばれる概念です。しかし、この「パターナリズム」は、決して医師の一方的な価値観で患者さんの行動を制限することを正当化するものではありません。患者さんの置かれている状況、病気の深刻さ、そして可能な限り患者さんの意思を尊重しようとする姿勢、これらの要素を総合的に判断した上で、慎重に判断していく必要があります。
大切なのは、常に患者さんの立場に立ち、寄り添いながら、本当に必要な支援は何かを考え続けることです。安易な「善意」や「親切心」ではなく、患者さんとの信頼関係を築き上げることが、より良い医療の実現へと繋がっていくのではないでしょうか。
医療現場でのジレンマ | 患者さんの権利と医師の役割 |
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患者さんのためを思って行動した結果、意図せずして相手を傷つけたり、誤解を生んでしまうことがある。 | 患者さんの人生、価値観、選択を尊重することが重要。患者には、自身の病気や治療について理解し、納得の上で決断を下す権利がある。 |
医師としての使命感から、「おせっかい」と捉えられかねない言動をしてしまうことがある。 | 患者さんの状況や精神状態によっては、十分な判断能力を発揮することが難しい場合もある。 |
医師は、患者さんの「最善の利益」を守るために、一時的に介入が必要となる場合がある(医療における「パターナリズム」)。 | 「パターナリズム」は、医師の一方的な価値観で患者さんの行動を制限するものではない。状況、病気の深刻さ、患者さんの意思を総合的に判断する必要がある。 |